東京ドキュメンタリー映画祭2020

上映作品

特集6ゾミアの秘祭

12月11日(金)15:30〜上映

  • ナガのドラム
    ナガのドラム
  • 作品1

    ナガのドラム 上映時間66分

    「ナガ族の取材に一緒に行ってみない?」制作会社のプロデューサーをしている知人からのお誘いがきっかけだった。正直この時まで、ナガ族のことは全く知らなかったが、「ミャンマーの山奥で暮らす少数民族」という言葉に惹かれ、取材クルーの一員として2015年に初めて足を踏み入れることになった。当時感じた不思議な違和感に強く惹かれ、ナガ族の音楽調査を企画、2016年に撮影・集音機材を抱えて再びナガへ向かった。 調査は暗中模索で始まった。事前に紹介してもらった人物や、現地の有識者を訪ねながら音楽の情報を募ったが、視界が明るく開けるような情報はなかなか得られなかった。転々と村を訪ねながら、村人へのインタビューや歌と踊りを毎日記録し続けた。しかし、深く心に入ってくるような音に出会うことができない。少しづつ期待を削がれていくような日々を過ごしながら、「もしかしたら、自分が思い描いていたような音楽はここには無いのかもしれない」と思い始めていた。
    調査が終盤に差し掛かった頃、ナガのドラムを作るチャンスが巡ってくる。部族の言葉で「キェム」と呼ばれているこのドラムは、ナガ族が古くから受け継いできたユニークな文化の一つだ。彼らが培ってきた精霊信仰と密接に関係していて、儀礼や祭りなどの行事、メッセージを遠くへ伝えるときなどに使われている。救いの手を差し伸べてくれたのは、移動手段に雇っていたバイクのドライバーだった。「俺の地元の村ならドラムを作れるかもしれないよ」、アウンヂョーカインという名のドライバーは、部族の長老達に掛け合い、話し合いの場をセッティングしてくれた。部族の代表5人と机に向き合い、ドラム作りに漕ぎ着けたい一心で話し合いに望んだ。話を聞く彼らの硬い表情に不安がよぎったが、なんとか折り合いがつき、ドラム作りを行うことになった。一度決まってしまえば事が進むのは早い、翌日からドラム作りを始めることになった。 この作品は、ミャンマーとインドの国境にまたがり暮らす少数民族・ナガ族が、ミャンマーのザガイン管区、ラヘータウンシップのサパロー村で2016年3月3日から3月16日にかけて行った、ドラム作りとその完成を祝うお祭りを映し出している。

    2019年/66分

監督のことば

東南アジアの西端、タイとインドに挟まれるように位置しているミャンマーは、優に100を超える民族が暮らす多民族国家だ。そしてその北西部、インドと国を分かつように位置する丘陵地帯に暮らしているのがナガ族だ。ミャンマーで暮らすナガ族の多くは、奥深い山の中で自給自足の生活を送っている。厳しい地理的要因と複雑な政治的背景が相まって、彼らが住まう丘陵地帯への入り口は長らく閉ざされてきた。そのため、ユニークな文化を今でも色濃く残している。2016年の2月から3月にかけて訪ねたサパロ村で、ナガ族が古くから受け継いできた巨大なドラム作りに立ち会った。一見、滑稽にも見て取れる村の一大行事に釘ずけになりながら、毎日記録を続けた。当時の記憶を紡ぎ、「ナガのドラム」を作った。

監督プロフィール

  • 井口覚
  • 井口覚
    日本とミャンマーを拠点に活動する録音技師、ROLLERS recordings主催、株式会社ローラーズ代表。本作が初映像・監督作品となる。2013年に訪れたミャンマーで独特な音楽文化と遭遇、以降同地の音楽家との協業を続けている。2015年にミャンマー側で暮らすナガ族を訪ね、彼らのユニークな文化に惹かれて音楽調査を企画、音声の記録と同時に映像記録を初める。
  • 作品2

    アルナチャール人類博覧会 上映時間15分

    インド北東部、東ヒマラヤにあるアルナチャール・プラデーシュ州。中国と紛争中で国境が確定しておらず、多くの少数民族が混住するゾミア(山岳地帯)である。近年まで外国人の入域が制限されていた。チベット系のモンパやニシが暮らす町タワンの周辺では、昔ながらの農村が広がり、人びとはチベット仏教の戒律を守って静かに暮らしている。
    そんな静かな山地で、インド政府は少数民族フェスティバルを開催。モンパ、ニシに加えて、東北部からナガ、ガロ、ミゾなど諸民族を集め、彼(女)たちの民族衣装や伝統舞踊を紹介する。そこにはゾミアを観光化し経済効果をもたらすことで、インドの実効支配を強めようとする政治家たちの意図が透ける。カメラはそのさまに19世紀的な「人間動物園」の歴史的な反復を見る。

    2020年/15分

監督のことば

東ヒマラヤを旅したのは2013年のこと。アッサム州から、よく墜落する航路のヘリコプターで4000メートル級の峠をこえて、アルナチャールに入りました。チベット仏教の伝統に生きるモンパ、アニミズムに近い精神性を持つニシ、3日間車で山中を移動し、たどり着いたジロで出会ったアパタニの人びと。この旅で撮影した映像をいかにまとめるかが宿題になっていました。
昨年、共編著『ジャン・ルーシュ 映像人類学の越境者』という本を執筆・編集するなかで、ルーシュの自由な短編映画のつくり方に魅せられ、この映画の構成・編集を思いつきました。巨大なインドの辺境において少数民族が国家の一部に登記され、新たな観光と経済のルールのなかで伝統文化が見世物化されていくさまを描いていますが、個人的には撮影に協力してくれた現地の人たちのために映像記録を残したいと思い、何とか完成したものです。

監督プロフィール

  • 金子遊
  • 金子遊
    映像作家、批評家。劇場公開作に『ベオグラード1999』『ムネオイズム』『インペリアル』など。近作の長編『森のムラブリ』がクラトヴォ国際民族映画祭、東京ドキュメンタリー映画祭2019で上映。著書『映像の境域』でサントリー学芸賞受賞、近刊に共編著『ジョナス・メカス論集』。neoneo編集委員、当映画祭プログラマー。
  • 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
  • アジアンドキュメンタリーズ