東京ドキュメンタリー映画祭2021
東京ドキュメンタリー映画祭上映作品 > 憑依する精霊たち

上映作品

特集憑依する精霊たち

3月11日(金)16:05〜上映

樺太先住民のシャーマンを撮った『オロッコ・ギリヤークの生活』、タンザニアの女性が呪術師になる過程を記録した『呪術師の儀礼』、ネパールの秘祭と精霊が宿る供物に迫る『神が宿る供物』、青年たちが動物霊に憑依されて失神する『憑依の宴』、カリブ海のガリフナ人の祭儀を撮った記録『ドゥグ』。精霊と人との交信を描く5本。

◎舞台挨拶
 ▶︎3/11(金)16:05の回 上映後
 登壇:金子遊監督(『憑依の宴 ジャワ島のジャティラン』)、冨田晃監督(『ドゥグ ガリフナの祖霊信仰』)
 オンライン登壇:松永由佳監督(『呪術師の儀礼 タンザニア』)

  • オロッコ・ギリヤークの生活
    オロッコ・ギリヤークの生活
  • 作品1

    オロッコ・ギリヤークの生活 上映時間18分

    かつて樺太(現サハリン)の「オタスの杜」に居住していた、オロッコ(現ウイルタ)とギリヤーク(現ニヴフ)。宮本馨太郎が北方文化調査で訪れたときの記録映像。オロッコの男女のシャーマンの姿にカメラを向けている。死者を木棺に入れた珍しい樹上葬(オロッコ)や、家型棺(ギリヤーク)も見える。熊の頭骨と骨を樹上に縛りつけたオロッコの習俗から、熊の再生を願う思いが伝わってくる。この映画の記録の持つ意味は大きい。※サイレント上映

    1938年/18分

監督プロフィール

  • 宮本馨太郎
  • 宮本馨太郎
    旧制中学時代の1928年(昭和3)の16歳の時、仏製の9.5ミリカメラ、パテーベビーを購入して撮影を開始。初めての民俗記録映画「海女」を房州平館で撮る。立教大学在学中は映画同好会をつくり活動。17歳で父勢助に連れられアチック・ミューゼアムで渋沢敬三に会う。その後、渋沢の旅の多くに同道し、数多くの民俗誌映像を残した。『花祭をたづねて』(1930)、『八丈島の記録、島の生活』(1931)、『越後竹沢村角突』(1935)、『珍しい深田の田植え』(1936)、『パイワン族の再訪記録』(1937)ほか多数。
  • 作品2

    呪術師の儀礼 タンザニア 上映時間8分

    タンザニアでは呪術師が施す伝統医療が現在も人々の支えとなっている。呪術師は自分に取り憑いたマジニ(人間を起源としない霊体的存在)に儀礼を通して納得させることで呪術の力を得ることができる。ある女性はまさに呪術師になる儀礼「ンゴマ」の最中であった。歌や踊り、捧げ物など夜通しマジニに捧げる儀礼に圧倒されつつ、彼女たちが繋ぐ不可視の世界とのやり取りをカメラに収めた。

    2021年/8分

監督のことば

村の子供たちの手には呪術師が作った薬が巻き付けられ、病院で治らないと言われる病いは呪術師の下に行くよう現地スタッフは患者に勧めていた。伝統医療の強さとは何か?実際に呪術師の治療を見ていくと、タンザニアの人々にとっての病いが、身体に関する病いだけを指すのではなく、社会の不都合さをも内包していた。呪術師は医療がカバーできない領域で人々を癒し続けている。彼らの持つ力の源をぜひ観て感じて欲しい。

監督プロフィール

  • 松永由佳
  • 松永由佳
    東京生まれ。看護師。2013年より青年海外協力隊にて東アフリカ・タンザニアにて2年間活動。帰国後、熊本大学大学院社会文化科学研究科文化人類学専攻にて博士前期課程修了。研究論文は2019年一般社団法人アフリカ協会第四回懸賞論文佳作入賞。現在、看護師の傍らアフリカの文化や呪術に纏わる講演を行う。
  • 作品3

    神が宿る供物 ~ネパール・パタンのパンチャリ・ブザ祭り~ 上映時間18分

    ネパールの首都カトマンズの南、パタンで、雨期明け間近の満月前後に行われるイェン・プニと呼ばれる祭。その最終日に行われるパンチャリ・ブザ祭では、炊いたお米で作った供物が捧げられる。その供物は、祭りの中で作られ、腐敗の一途をたどる。最後は、人々が奪い合うようにその供物に群がり、持ち去っていく。この供物が、邪術による病気を治すとも言われているからだ。

    2021年/18分

監督のことば

この怪しい供物のよくわからない魅力に憑りつかれて、何度も通ったお祭りです。米を炊いた時の甘い香りと、もったりとした空気、捧げられた後の酸っぱい腐敗臭。それが、人の生と死に重なり、その境界に立たされているような不思議な気持ちになります。結局何を知りたかったのか、今でもよくわからず、うまく言葉にできないまま今に至ります。なんとなく撮りためていた映像がこうして映像作品として一つにまとまったことが、不思議な感じです。

監督プロフィール

  • 山上亜紀
  • 山上亜紀
    1975年生まれ。大学院で文化人類学を専攻、ネパールについて学ぶ過程で、映像に興味を持つ。ヴィジュアルフォークロア所属。番組制作にかかわる傍ら、宮本馨太郎作品の保存に携わり、ご子息が代表理事を務める(一財)宮本記念財団の研究員として、作品の検証に取り組む。
  • 作品4

    憑依の宴 ジャワ島のジャティラン 上映時間15分

    ジャワ島の東部には、ジャティランと呼ばれる馬踊りの憑依芸能がある。村の結婚式や割礼式など特別なときに開催され、農家や労働者など貧しい若者が踊り手をつとめる。ガムランやゴングから成る楽隊の演奏にあわせて踊るうちにトランスし、青年たちは祖霊や森の動物霊に憑依される。パワンと呼ばれるシャーマンたちが、憑依された少年たちをひとりひとり悪魔祓いする。一説には、60年代のスハルト独裁による圧制下で、民衆がストレスを発散するために広まった芸能といわれる。

    2021年/15分

監督のことば

はじめて現地調査したときは驚きました。華美な衣装で、隊列を組み、踊っていた若者たちが、眼の前で一斉に失神してトランス状態に。精霊に憑かれて、ある者は見事に舞い、ある者はシャーマンに鞭打たれても平気な様子。犬やカエルの霊に憑依されて飛び跳ねる者がいれば、豚の霊のせいでスイカをバカ食いする者もいる。それを見てゲラゲラと大笑いする見物人たち。所属する芸術人類学研究所で、この魅力的な憑依芸能を研究することに決め、最初にできた成果物がこの映像作品です。

監督プロフィール

  • 金子遊
  • 金子遊
    批評家・映像作家。著書に『光学のエスノグラフィ』(森話社)ほか多数。近作に、タイとラオスの森のなかで遊動民の現在を追った長編『森のムラブリ』(2019年)、東ヒマラヤの高地で観光化される少数民族の姿を記録した短編『アルナチャール人類博覧会』(2020年)など。当映画祭プログラム・ディレクター。
  • 作品5

    ドゥグ ガフリナの祖霊信仰 上映時間39分

    中米ホンジュラスの少数民族ガリフナは、敬虔の念をもってさまざまな祖先崇拝儀礼をおこなう。発端は、災いがつづくことだった。娘は、亡き祖母が夢に出て寝付けぬ日々をおくっていた。そして、娘の母親の足が腫れ、叔父が交通事故にあうのだった。祭司は、祖母の怒りであるという。そこで、祖母の子や孫が集まって、祖霊を招き、もてなし、願いを聞き、送り返す儀礼ドゥグを4日間にわたりおこなった。

    2021年/39分

監督のことば

中央アメリカのカリブ海沿岸に住むガリフナ人の宗教は、西アフリカおよびカリブ海セント・ビンセントからもちこんだものに、ハイチのブードゥーやキリスト教カトリックが習合した独自なものです。30年ほど前、私はガリフナに出会い魅了されて以来,ガリフナの歴史や文化を研究してきました。本作は、私がガリフナ研究を本格的にはじめた頃に撮影した映像を2021年に編集したものです。

監督プロフィール

  • 冨田晃
  • 冨田晃
    1963年浜松生まれ。1989年に協力隊員としてホンジュラスに派遣。以来、ガリフナ研究をライフワークとする。(CD)『カリブ海 ガリフナ族の歌声』ビクター(1994),(写真集)『GARIFUNA こころのうた』現代企画室(1995)、 (論文)「ガリフナの祖霊信仰・ドゥグ」『季刊民族学』(1995)、(論文)「ヨーロッパの鏡像、カリブとカニバル」『思想』(2020)
  • 芸術文化振興基金
  • エトノスシネマ
  • アジアンドキュメンタリーズ