東京ドキュメンタリー映画祭2022
東京ドキュメンタリー映画祭上映作品 > 人類学・民俗映像1

上映作品

人類学人類学・民俗映像1 上映時間102分

12月14日(木)9:40 / 12月20日(水)11:20

ロシアの少数民族チュクチを、異なるアプローチから描いた2作品。海獣の狩猟を生業とし、自然との共生や食を通した彼らの生と死の循環を、シャーマンの儀礼音楽をバックに強い画でみせる『ピブロクト』。ツンドラの伝統的生活を離れることによるアイデンティティの喪失や高自殺率の問題を、ある男とその家族の劇的なシーンで描き出す『ディタッチド』。

 

  • ピブロクト(Piblokto)
    ピブロクト(Piblokto)
  • 作品1

    ピブロクト(Piblokto) 上映時間38分

    北極海沿岸のチュクチ自治管区(チュコトカ)には、世界から隔絶されて暮らす人々がいる。彼らの生活の中心は、セイウチ狩りや捕鯨、そしてツンドラ地帯から現れる熊から村を護ること。海洋生物は人々の主要な食糧源となり、動物の食べ残しが毛皮農場の北極狐の餌となり、人間の墓地が熊の標的となる。この地に生きるものは全て食と死のサイクルに組み込まれている。北方民族にとって重要な、シャーマンの儀式の構造を取り入れ構成したという作品。

    2023年/38分/ロシア、アメリカ

監督のことば

『ピブロクト』は極北の伝統やシャーマニズム、そしてコミュニティに流れる民間継承へ私たちが魅了されたことから生まれました。この映画で私たちは、ロシア北部の土着的な伝統やコミュニティにも踏み込んでいます。そこでは植民地化という歴史にもかかわらず、その文化的本質が維持されていました。作中に流れるサウンドは、死を象徴するシャーマンの儀式の音を使用しています。シャーマンはスピリチュアルな通過儀礼を受けており、精霊をコントロールする能力を授けられ、彼らのコミュニティを生と死のサイクルに繋げていると信じられています。その語り口は自然と海での狩猟を生活の軸とするチュクチとイヌイットの人々の繰り返しや循環する性質が映し出されています。狩猟と切り離せない生活をしている孤立した村インチョウンとウエレンを舞台に、タイトルである 『ピブロクト』は、北極圏のヒステリーを意味しています。それはシャーマンのトランスに似た状態や、繰り返される行動、存在しない言語での歌、攻撃的で一見無意味な行動などを表す言葉です。その起源については多くの議論を呼んでいます。と言いますのも、先住民の言語にはないものであり、先住民達にとって普遍的に病気として認識されているわけでもないからです。私たちの映画は、この曖昧さを掘り下げ、文化と視点の橋渡しになるのです。

監督プロフィール

  • アナスタシア・シュビーナ、ティモフェイ・グリニン(Anastasia Shubina, Timofey Glinin)
  • アナスタシア・シュビーナ、ティモフェイ・グリニン(Anastasia Shubina, Timofey Glinin)

    メディア・ドキュメンタリー、実験映像、ビデオアート、写真、パフォーマンスと多岐にわたって、様々な分野でマルチな活動をしているアナスタシア・シュビーナとティモフェイ・グリニン。2018年から共同制作を始め、現在はアメリカのサンフランシスコを拠点にしている。

    アナスタシア・シュビーナ(右):
    サンクト・ペテルブルグ出身のヴィジュアル・アーティスト。St. Petersburg School of New Cinemaで映画、Docdocdoc School of Modern Photographyで写真、サンクト・ペテルブルグ大学で哲学を学ぶ。手掛けた映像作品は多くの国際映画祭で上映され受賞している。また彼女の写真プロジェクトは個展やグループ展で展示され、国際コンペティションで受賞しており写真誌やオンラインのプラットフォームで出版されている。また個人的なプロジェクトとして、神話や人類学、歴史的トラウマをテーマに探究をしている。

    ティモフェイ・グリニン(左):
    サンクト・ペテルブルグ出身のマルチアーティスト。St. Petersburg School of New Cinemaで映画制作を、サンクト・ペテルブルグ大学で生物学を学ぶ。フリーの映像作家・写真家である。数多くの国際映画祭に出品・受賞し、写真プロジェクトも個展・グループ展で展示されている。数多くのサイエンス・アートパフォーマンスも行っている。また個人的なプロジェクトとして、文化実践や民族誌、近代科学をテーマに探究をしている。

  • 作品2

    ディタッチド(Detached) 上映時間64分


    🏆人類学・民俗映像部門コンペティション 準グランプリ

    ツンドラでのトナカイの放牧を伝統的に行ってきたが、現在は街に定住にしているチュクチの人々。だが、高い自殺率やアルコール依存が大きな社会問題になっている。本作は、ある一人のチュクチ族の男のモノローグによって、男と家族それぞれが置かれた困難な状況を描いている。彼らの現代生活と母なる大地、そしてチュクチが自分たちのルーツから断絶されてしまう要因について劇的なシーンによって構成している。

    2022年/64分/ロシア

監督のことば

『ディタッチド』は、全ての民族が私たちの国や地球上から消えてしまう理由を理解しようとしているだけでなく、自然と密接に結びついた人々の生活の美しさを映します。この映画が表明しているのは、地球上すべての人々がある意味で非常によく似た状況であるということです。というのは誰もが同じように社会的問題を抱え、同じようにシンプルに人生の喜びを享受しているからです。しかし、それぞれの民族グループで規模の差は関係なく、それぞれが唯一無二で価値があります。 この映画ではチュクチの人たちの深刻な問題を見せていますが、彼らの過ちを非難するのではなく、観客に彼らの過去への誇りと現在に対する痛みを感じさせ共感させることが主旨なのです。また、生への希望が悪いものや表面的なものを打ち倒し、彼らを「吹雪」の中に迷い込ませて「人間が起こす騒音」に終止してしまわないようにすること、そして民族的自覚という彼らのかけがえの無い宝物を守る手助けになることを望んでいます。

監督プロフィール

  • ウラジーミル・クリロフ(Vladimir Krivov)
  • ウラジーミル・クリロフ(Vladimir Krivov)

    1973年、ロシアのクルスク生まれ。2007年(M.A.リトフチンにちなんで命名された)テレビ・ラジオ放送人文科学研究所の音響工学部卒業。2003年よりロシアのテレビ局で編集・音響として活動。監督デビュー作"My Friend Yeti"は多くの国内外の映画祭で上映された。本作は監督作品として2作目となる。

  • 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
  • エトノスシネマ