東京ドキュメンタリー映画祭 in OSAKA 2021 > 上映作品 > 人類学者たちのフィールド
上映作品
特集4人類学者たちのフィールド
3月22日(月)13:40~
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作品1
アッバ・オリの一日 上映時間36分
エチオピア西南部のコーヒー栽培が盛んなコンバ村。1998年から現地調査でお世話になってきたアッバ・オリは、84歳(2019年2月撮影時点)。いまや村で最長老だ。数年前から足を悪くし、出歩けなくなった。75歳の妻ファトマとともに、病気がちで床に伏せることも多い。裏庭のバナナの下で用を足し、軒下の長椅子に座り、居間でコーヒーを飲み、礼拝をする。単調な時間が過ぎていくだけなのに、アッバ・オリは孤独でも、退屈そうでもない。半径5メートルの暮らしに、子どもや孫、友人たちが訪ねてくる。サルも、虫も、風も、やってくる。さまざまな生命に囲まれた時間。そんなアッバ・オリの過ごす一日をとおして、エチオピアの村の老いの風景をとらえる。人と人とがどう関わって生きていくのか? そんな問いを考えるために。2020年/36分
監督のことば
本作品の主人公アッバ・オリと出会ったのは、まだ私が大学生のころだ。大学を休学して友人2人とエチオピアに行き、コーヒー農園の調査をはじめていた。何を調べたらいいのかわからなくなり、部屋を間借りしていた大家とも険悪な関係になったとき、アッバ・オリは「いつでも家に来たらいい」と言ってくれた。あれから20年以上がたつ。村の歴史にも詳しく、いつも寛大に「外国人」を迎え入れ、居候させてくれたアッバ・オリとその家族がいなければ、私の人類学的な「調査」は不可能だった。当時はまだ60代で畑仕事も現役だったアッバ・オリが、数年前からめっきり身体が弱ってきた。その「老い」の姿は、日本で見聞きしてきた高齢者をめぐる状況とは違っていた。なにがどう違うのか。その違いの背景に何があるのか。アッバ・オリとそれをとりまく人びとの何げない日常からは、私たちの「生」がいまどんな状況にあるのか、突きつけられている気がする。監督プロフィール
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松村圭一郎
岡山大学准教授。専門は文化人類学。エチオピアや中東でフィールドワークを続ける。著書に『うしろめたさの人類学』(ミシマ社、毎日出版文化賞特別賞)、『これからの大学』(春秋社)、『はみだしの人類学』(NHK出版)など。エチオピアの農村から中東に出稼ぎに行く女性たちや村人の様子を撮った『マッガビット~雨を待つ季節~』(2016)が東京ドキュメンタリー映画祭2018短編部門で上映される
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作品2
プティー ジャライ族の墓放棄祭 上映時間47分
ベトナム中部高原の先住少数民族ジャライは、死者を埋葬した後、数年あるいは数10年後に墓放棄祭(プティー)という盛大な祭礼をおこなう。死者の霊(アタウ)は死後も村の共同墓地を彷徨っており、村に様々な災厄をもたらすと考えられている。墓放棄祭を行うことで死者の霊を現世から完全に断ち切り、あの世(死者の村)に送り届けるのである。墓放棄祭では近隣の村からも多くの人が集い、多数の水牛が供犠される。またゴング演奏の響きが精霊を集め、死者の村への道標となる。2014年/47分 撮影地:ベトナム
監督のことば
2013年2月、私と共同監督のヴィンチェンツォ氏、調査助手のロン氏の3人はベトナム中部高原にあるジャライの村落にいた。最も近い町から舗装されてない道をバイクで2時間ほどかけてたどり着いた。墓放棄祭は乾季の2月~4月頃に行われるジャライの人びとにとって最も重要な祭礼である。彼らが死者のために精巧な霊廟を建設し、多数の水牛を屠り、夜通し踊り、ゴングを演奏するのはなぜなのか。彼らの死者との向き合い方は、「死」が生活から遠ざけられてきた現代社会にどのような示唆を与えるだろうか。監督プロフィール
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柳沢英輔、ヴィンチェンツォ・デッラ・ラッタ
(上)柳沢英輔
1981年、東京都生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。博士(地域研究)。主な研究対象は、ベトナム中部地域の金属打楽器ゴングをめぐる音の文化。著書『ベトナムの大地にゴングが響く』(灯光舎、第37回田邉尚雄賞受賞)。主なフィールド録音作品に『Music of the Bahnar People from the Central Highlands of Vietnam』(LP, Sublime Frequencies)、『Path of the Wind』(CD, Gruenrekorder)。映像作品に『Pơ thi ジャライ族の墓放棄祭』など。(下)ヴィンチェンツォ・デッラ・ラッタ
民族音楽学者。ローマ大学で博士号(民族音楽学)を取得。東南アジアのオーストロネシア語族のゴング音楽に高い関心を持つ。これまでにベトナム中部高原および東カリマンタン(インドネシア)で、それぞれジャライ、エデ、ダヤック・ベヌアックの音楽と文化を研究し、幾つかの論文とフィールド録音のレコードを2作品出版した。またインドネシアとイタリアで6年以上ガムラン音楽を学び、演奏してきた。アレクサンダー・フォン・フンボルト財団の研究助成対象者でもある。