東京ドキュメンタリー映画祭2022
東京ドキュメンタリー映画祭上映作品 > ワールドワイド・NOW

上映作品

短編ワールドワイド・NOW 上映時間91分

11月30日(土)14:40 / 12月10日(火)13:55

カメラの前で佇むガザの少女の姿と詩の一片、アフリカのシオラレオネに根付く伝統儀式「女性器切除」の変革、キューバに生きるトランスセクシュアルが抱える苦悩と現実、関東大震災で被災した朝鮮人追悼の地で生きる在日2世たちの日常、リオデジャネイロ郊外の違法な「海賊バス」と乗客たちの人生。世界中で声をあげる人々の姿を浮かび上がらせる5作。

  • ガザよ、もし我汝を忘れなば
    ガザよ、もし我汝を忘れなば
  • 作品1

    ガザよ、もし我汝を忘れなば 上映時間3分

    「私は死する人民とともにいるから構わないが、人殺しの君主たちとともにいる諸君を哀れに思う。」
    ヴィクトル・ユーゴー

    2024年/3分/日本

監督のことば

2023年12月10日、私はソーシャルネットワークで、11月29日に東京で行われたパレスチナ支援デモで、ハニン・シアムがアリ・アブ・ヤシンの『ガザ独白録』からの抜粋を朗読しているビデオを発見した。数日後、明確なアイデアもないまま、私は彼女に手紙を書き、映画製作を提案した。

監督プロフィール

  • ヴァンサン・ギルベール
  • ヴァンサン・ギルベール

    Vincent Guilbert
    1976年フランス出身。1999年にパリ国際映画テレビ学校を卒業後、2006年より主に日本で活動。アナログまたはデジタルで撮影された作品は、断片的な時間性の長編から実験的なエッセイやアーティストのポートレイトまで幅広く、ドキュメンタリーとフィクションの境界線上にあることもある。テーマは基本的に時間と断片化された記憶に関連している。

  • 作品2

    カディジャへの手紙 上映時間11分

    アフリカや中東を中心に、女性器切除(FGM)という古くからの慣習がある。世界で2億人が経験するという通過儀礼だが、命の危険も伴う人権侵害としてユニセフが根絶を目指してきた。国際社会からの批判を受け、西アフリカのシエラレオネでは「切らないFGM儀式」が広がりつつある。これまで撮影が許されなかったその儀式に、FGMに反対する母娘への同行取材が認められた。新たな動きは、深く根付いた伝統にどのような変革を起こせるのか。

    2024年/11分/日本/原題:LETTER TO KADIJA

監督のことば

このドキュメンタリーを取材したのは2020年で、編集室でこの素材と向き合うまでに4年の時間がかかりました。シエラレオネへはFGMの取材で過去に4回訪れる中で、「イエローボンド」という伝統的な女性器切除(FGM)の問題に対する新しいアプローチがあることを知りました。私自身もその儀式を受けることを条件に、現地の女性たちの生活に深く関わることができました。 この作品は、単なるドキュメンタリー以上のものです。それは、文化と女性の権利の交差点で起こる現実を映し出し、「問題」「情報」としてだけでは切り捨てられないストーリーがあると思います。私たちの世界には、時に古い慣習と現代の価値観との間で揺れる選択肢があります。これらの課題に対する理解を深め、議論を促進するきっかけになればと願っています。

監督プロフィール

  • 伊藤詩織
  • 伊藤詩織

    映像ジャーナリスト。BBC、アルジャジーラ、エコノミストなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信している。2020年米TIME誌の世界で最も影響力のある100人に選出される。著書に『裸で泳ぐ』(岩波書店)『Black Box』(文藝春秋社)など『Black Box』は10ヶ国語/地域で翻訳される。2019年ニューズウィーク日本版の「世界が尊敬する日本人100」に選ばれる。2022年には「One Young World」世界若手ジャーナリスト賞を受賞。長編ドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』が2024年サンダンス映画祭に正式出品され、世界各地で公開が決定。


    portrait by Hanna Aqvilin
  • 作品3

    横断旅行 上映時間22分

    原題:Travesîas
    ブラジルとキューバを結ぶラブレター。愛する人の感情と変容を受け止める言葉が記録された。モノローグの人物は疑念(ぎねん)と懸念(けねん)を癒す旅に出かけ、出会ったのがトランスジェンダーのジャスティン。
    人の変化を恐れず、自分を愛す事を伝授する。

    2024年/22分/ブラジル・キューバ/原題:Travesîas

監督のことば

短編映画『横断旅行』は、キューバのトランスセクシュアル、ジャスティンが経験した過酷な現実と、私自身が経験した疑問や悩みを同時にさらけ出すことで、その必要性を説いている。ブラジルで始まり、答えを求めてキューバに向かう物語。ジャスティンが経験したのと同じような変容と疑念を経験した親愛なる人へのメッセージであり、ジャスティンと同じような変容と疑念を経験する私自身の親愛なる人へのラブレターである。

ブラジルやキューバをはじめ、世界中の多くの社会では、LGBTQA+であることは、その人を生涯にわたって強い苦しみに陥れる。またラテンアメリカにおいて、LGBTQ+は死刑に至る場合もある。私たちは視線を広げることが必要であり、そして、個人が生きる『性』を受け入れ、尊重すること。この短編映画はその理解を得るために作られました。

監督プロフィール

  • アナ・グラジエーラ・アギアル
  • アナ・グラジエーラ・アギアル

    Ana Graziela Aguiar
    ブラジル・ヴィソーザ連邦大学でジャーナリズムを専攻し、その後エスタシオ・デ・サ大学大学院でオーディオビジュアル制作、ウニレヤ大学でも人権と民族・社会問題の学位を取得。またキューバのEICTVでドキュメンタリー映画制作の修士号を取得。ブラジルの公共テレビ局TV Brasilで13年以上ジャーナリストとして働き、人権賞や労働公共省などの賞を受賞。他の監督作品に新型コロナウイルスが大流行中のキューバの映画学生を描いた短編映画『My Name Is Nostalgia』や、パンデミックと教育への影響を描いた初の長編『Desconectados』(2022 共同監督)がある。

  • 作品4

    流れゆく 遠い道 上映時間27分

    鉄橋と川の水が交差する東京東部の荒川。関東大震災時韓国・朝鮮人殉難者追悼之碑と並んで佇む「ほうせんかの家」には在日朝鮮人2世の慎民子(シン・ミンジャ)さんがいる。鳳仙花で爪を染め、プンムルを教える彼女の日常が、在日朝鮮人3世のクィアアーティスト・ウヒが書いて朗読する詩と共に語りかけてくる。 白黒の記憶に鳳仙花が伝うかのように、色を染めゆく人たちの物語。

    2023年/27分/日本・韓国

監督のことば

1923年9月1日の関東大震災、そして朝鮮人大虐殺。それから百年後を生きる私たちは何をどのように記憶しなければならないだろうか。「切断された時間」の向こうを生きる在日朝鮮人女性とクィアの声で、犠牲者たちをたたえる。

監督プロフィール

  • チェ・イェリン(崔藝隣)
  • チェ・イェリン(崔藝隣)

    韓国ソウル生まれ。現在は東京で暮らしながら、ドキュメンタリー監督、通訳者、アクティビストとして活動中。フェミニズムの観点から、歴史の記憶と現在をつなぐ作業に取り組んでいる。

  • 作品5

    ソニョ・ピラタ 海賊の夢 上映時間28分

    リオデジャネイロ郊外から市の中心部に通勤する人たちを乗せる違法な「海賊バス」の運転手、グスタヴォを中心に、彼とバスの乗客たちの人生と彼らの見る夢を通して、現代ブラジルの抱える問題に光を当てる。

    2024年/28分/ブラジル/原題:Sonho Pirata

監督のことば

12歳の頃、私は「海賊バス」に間違えて乗ってしまったことがある。古びたシートの軋む音やカーテンのはためく音、街灯に照らされた乗客の寝顔は、鮮烈な原風景として私の中に焼き付いた。2021年、私は海賊バスの運転手のグスタヴォと出会い、彼との対話を通して少年時代の記憶を核としたドキュメンタリーの制作を決意し、iPhoneと小型のレコーダーだけを持ってバスに乗り込み、膨大な時間を乗客と共に過ごしながら彼らの声を記録した。
低所得者層向けの違法な交通サービスは、数十年にわたって多くの人の目に触れることなくブラジル全土に存在している。合法と違法、職場と家庭、郊外と都市部、疲れ (sono)と夢 (sonhos)…。長年放置され続ける問題への間に合わせの解決策であり、ふたつの隔たる世界の間を行き来する存在としての海賊バスを、このドキュメンタリーは描いている。

監督プロフィール

  • ステファノ・モローニ
  • ステファノ・モローニ

    Stefano Moloni
    ブラジルの映像作家。「人の声を記録すること」への関心は、カセットレコーダーを持って周囲の人々にインタビューして回った幼い頃に遡る。バルセロナで映画を学び、ブラジルに戻ってからは、プロデューサーから撮影監督まで映画業界の様々なポジションで経験を積みながら、ストリート写真を撮り続けている。2022年、リオ州主催の脚本コンペティションで優勝し、現在は初の長編映画の脚本を執筆中。

  • 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
  • 芸術文化振興基金助成事業
  • エトノスシネマ