東京ドキュメンタリー映画祭2022

上映作品

短編継承と革新 上映時間74分

12月5日(木)18:40 / 12月7日(土)13:50

知る人ぞ知る“日本のこころ”がうかがえる2本。 京都の帯屋・山口源兵衛氏が、蒐集する織物の子供服に込められたメッセージを紐解く『いのちの被膜』。『浮草』は、フランス人の監督が、大衆演劇の女形スター橘大五郎の一座に密着。若くして一座の長を預かる彼の覚悟や、寝食を共にしながら舞台に生きる役者たちの素顔をみつめる。

  • いのちの被膜
    いのちの被膜
  • 作品1

    いのちの被膜 上映時間15分

    一人一着。ひとつの衣を着続けた時代。それは魂そのものだった。京都の帯屋・山口源兵衛は地方で取り壊される家々から発見された子ども服を蒐集し、向こう側に100年前の情景を幻視する。「⼦どもで死ぬ。お⺟さんも⼀緒に死ぬ。出産が命がけやった。だからその命が儚い。命が短い。」分厚く刺し子された足袋。袖の継ぎはぎで出来た衣に宿る命の匂いに人間が自然に包まれながら生き死にを繰り返していた近代以前の世界が蘇る。



    2023年/15分/日本

監督のことば

真っ暗な部屋に⼊って、⼩さな肌着のような⽩装束のような⾐を撮影した。息を⽌めて、その布が⾃分を包む⾚い膜のようなものに⾒えてくるまで撮ると、その場に倒れ込んで⽬を閉じた。〈自分〉があるかないかの現象となり、衣が衣ではなく被膜となって、母と子の、見るものと見られるものの初源の円環に向かう。はかり知れないほど遠くから続いてきたまなざしの連鎖に自分もまたつらなっていくようだった。

監督プロフィール

  • 松井至
  • 松井至

    ドキュメンタリー制作者。1984年生まれ。人と世界と映像の関係を模索している。
    2022年、映画『私だけ聴こえる』を国内外で公開。
    信陽堂にてドキュメンタリー制作記〈人に潜る〉を連載中。
    誰からでも依頼を受けるドキュメンタリーの個人商店〈いまを覚える〉を開店。

  • 作品2

    浮草 上映時間59分

    原題:Herbe flottante
    大衆演劇のスターであり、女形で有名な橘大五郎。若くして橘劇団の座長を引き継ぎ人気も高いが、この大衆演劇と呼ばれる旅回りの一座は、日本ではあまり知られていないジャンルだ。舞台でも私生活でも常に演技をし、公演のために生きる橘と、一座の役者たちをはじめ、彼を取り巻く人々の日常生活に迫る。

    2024年/59分/フランス/原題:Herbe flottante(英:Floating Weed)

監督のことば

私が橘大五郎と出会ったのは、東京で交換留学生をしていた15年ほど前のことだった。日本学を専攻し、東京のさまざまな劇場、特に大衆演劇に熱心に通っていた私は、舞台上の大五郎の美しさにすぐさま心を奪われた。しかし、観客に見せる自由さや親密さとは裏腹に、大五郎はこの世界の制約と疑念を隠しているようにも見えた。私は彼をよりよく知るにつれ、彼の繊細さと高い感受性に感動した。 『浮草』は、大五郎の日常、つまりは自分の技と観客に完全に捧げられた放浪生活に飛び込んだ。この没入を通して、私は彼の個人的な側面も探ってみたのだが…。

監督プロフィール

  • モハメド・ガネム
  • モハメド・ガネム

    Mohamed Ghanem
    フランス生まれ。日本語を専攻した後、日本とフランスで文化交流の分野で働く。その後、フルブライト奨学生として1年間アメリカで写真とストーリーテリングを、アトリエ・ヴァラン(パリ)でドキュメンタリー映画制作を、ゴブラン(パリ)で映画のスチールを学んだ。以降、脚本、演技、翻訳、通訳など、さまざまな立場で演劇と映画の両方の分野で働いている。本作『浮草』は初監督作品。

  • 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
  • 芸術文化振興基金助成事業
  • エトノスシネマ