東京ドキュメンタリー映画祭2022

上映作品

人類学近代への内省 上映時間91分

12月6日(金)17:20 / 12月11日(水)12:10

二人のムスリムによるジャワ島での巡礼の旅を追った『青鷺の足裏』。西洋人として初めて北極圏に到達したロバート・ピアリーがグリーンランド探検でイヌイットの女性たちと多くの子供を残した軌跡を辿る『オブジェクト・オブ・スタディ』。真摯な信仰の態度と変容を強いられた先住民たち。対照的な近代を描く2作品。

◎舞台挨拶
▶︎12/6(金)17:20の回 上映後
 ビデオメッセージ:ラウル・アラエホス監督

  • 青鷺の足裏
    青鷺の足裏
  • 作品1

    青鷺の足裏 上映時間30分

    ジャワ島の神秘的なイスラム教の一派、ケジャウェンの長老ムサフィールであり信者であるムバ・ローマンは、森の中の小さな小屋で先祖代々の旅と旅の本質についての古代のマントラを唱えている。すぐ近くにはパントゥーラがあり、そこはインドネシアで最も交通量の多い北部沿岸道路となっている。ムバ・シャリーフもまたムサフィールの一人。コンテナトラックがひっきりなしに行き交う横で、インドネシアの容赦ないスピードとは対照的に歩みを進める二人。伝統と現代性がぶつかり合う中、インドネシア経済の躍進は容赦なく進む。黒装束に身を包み、農民帽をかぶり、ステッキを手に、彼らは数千キロに及ぶ果てしない巡礼の旅に出る。

    2024年/30分/インドネシア/原題:The Sole of the Flying Heron

監督のことば

本作の2人の主人公は、インドネシアの少数派イスラム教ケジャウェンの信者で、内面的な成長と自己体験に重きを置く神秘主義的なイスラム教の一派である。ムスリムが多数を占めるインドネシアにおいて、少数民族である中国系儒教の出身である私にとって、この映画を撮ることはインドネシア古来の伝統について学ぶプロセスとなった。残念ながら、インドネシア古来の伝統は徐々に失われつつある。実際、主流メディアではあまり取り上げられていない。だから私はジャワ島北岸の近代化の高速道路をゆっくりと逆走する彼らの姿に強く表れている、生き残るための沈黙の闘いを捉えることで、この伝統に形を与えたいと思う。

監督プロフィール

  • アンドリアヌス・ウチュ・メルディ
  • アンドリアヌス・ウチュ・メルディ

    Andrianus Oetjoe Merdh
    ジャカルタで生まれ、ベルリンでエンジニアとしての訓練を受ける。留学後西パプアに渡り、先住民のための学校教師として働く。その後フォト・ジャーナリズムへの情熱に目覚め、ドキュメンタリー映画の道へ進む。ゲーテ・インスティトゥートからクリエイティブ・ドキュメンタリー研修奨学金を受ける。その後ハンブルグHFBKにてインドネシア語研修、ドキュメンタリー研究奨学金を、ロバート・ボッシュ財団からドキュメンタリー研究奨学金を授与される。短編ドキュメンタリー『KAYU BES』(2022)はDOKライプツィヒで上映された。

  • 作品2

    オブジェクト・オブ・スタディ 上映時間61分

    最北の村の原住民の撮影をどのように進めるべきか、頭を悩ませている監督。そんな中、目をつけたのはアメリカの探検家ロバート・ピアリーが100年以上前に提唱した説だった。ピアリーは人類が北極点に到達する唯一の方法は、自分たちがイヌイットと子どもを儲け、イヌイットの力強さと西洋の千里眼を併せ持った「超人種」を作ることにあると考えていたのだ。今でこそ浅薄な説に過ぎないことはわかるが、実際にピアリーはイヌイットの女性との間に子どもを儲けている。では「超人種」たちは、その後どのような道のりを歩んだのか。監督は探求を開始した。



    2024年/61分/スペイン/原題:Object of Study

監督のことば

「オブジェクト・オブ・スタディ」は自己啓発映画です。私にとっては、自分を救うための映画です。 私は長年グリーンピースの映画監督として働き、北極圏の気候変動の影響を記録してきました。何かしらのアクションを起こし、有名人と一緒に現場に赴き、常に人々の良心を動かすような撮影の機会を探してきましたが、そのような中で、イメージ抽出主義に対するコンプレックスが私の中に芽生え始め、それがこの映画のきっかけとなりました。他者をどう撮影するか?異国情緒や絵のように美しいもの、善良な野蛮人のイメージに拘泥することなく、先住民をどのように描写するか?

この映画は原住民を撮影する方法についての「教科書」を意図しているのではなく、むしろ他者を撮影するという卑猥な行為について、観客に疑問を抱かせようとしています。観客は映画の中で積極的な役割を果たし、何が現実で何が虚構であるか(そもそも違いがあるのかどうか)を識別する責任が生じます。私は観客に、他者への理解を促すのではなく、永遠の不可解さという避けられない感覚、および多様性の豊かさを楽しんでもらうことを意図しています。

監督プロフィール

  • ラウル・アラエホス
  • ラウル・アラエホス

    Raúl Alaejos
    スペインの映画監督、ビジュアル・アーティスト。実験劇団Serrucho.orgを設立。その芸術的キャリアは映画エッセイとノンフィクションの領域を跨いでいる。

  • 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
  • 芸術文化振興基金助成事業
  • エトノスシネマ